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時計調節化合物

 現存する被子植物は、ゲノムを倍化させた痕跡が残っています。これを全ゲノム重複とよびます。その結果、多くの重複性遺伝子を持っています。遺伝子の重複性は、研究者が着目する生命現象の鍵となる遺伝子を同定するためのハードルになることがしばしばあります。

 わたしたちは、この遺伝子重複性の問題をのりこえて、時計の分子メカニズムを理解するために、低分子化合物のスクリーニングを起点とした研究に取り組んでいます。ハイスループットスクリーニング実験系により、シロイヌナズナの時計パラメーターを撹乱する複数の低分子化合物を得ています。さらに合成化学・分析化学者との共同研究により、ヒット化合物のうちの1つである長周期化化合物PHA767491の作用機序を解明しました。PHA767491は、シロイヌナズナでは13遺伝子座からなるCKL (カゼインキナーゼ1 like)を阻害することを突き止め、CKLはPRRタンパク質ファミリーのPRR5とTOC1をリン酸化し、その分解に影響を与えていることを見出しました。prr5 toc1二重変異株では、PHA767491の周期延長効果が劇的に低下していたことから、PRR5とTOC1の安定性制御がPHA767491の主要な作用機序と示唆されます。またこの安定性制御は時計の重要な性質である「概日」周期長を決定する1つのステップです (Uehara et al., PNAS 2019)。PHA767491とは異なる化合物ライブラリーから見出された3,4-dibromo-7-azaindoleもCKLファミリーの阻害を介して時計を長周期化することも見出しました (Ono et al., PCP 2019)。またPHA767491の構造活性相関研究から、植物のCKLファミリーの強力かつ特異性の高い化合物AMI-331を開発しました (Saito et al., Plant Direct 2019, 東京化成から研究試薬として販売しています)。

 転写ネットワークの研究からも、時計の分子メカニズムは多くの被子植物で共通する部分が認められるようになりました。また穀物の栽培期間や栽培地域の調節に関わっていた遺伝子座が時計遺伝子に頻出しています (Nakamichi PCP 2015)。化合物の作用を解明することで、​時計の分子メカニズムの理解が深まりますが、化合物の構造と活性をさらに調節する研究を展開することで時計を調節するユニークな分子技術が誕生すると考えています。

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